王女ちゃんの執事4『ほ・eye』王女さんの、ひとみ。
「餌すか? 置いとけば食うんじゃないの?」
 どうぞこちらに、とテニスコートに向けて歩きながら超初歩的質問。
「だめよ、この暑さだもの。くさっちゃうわ」
「…………」
 えっとぉ――。
 家畜分野は門外漢のおれでもわかる。
 飼料なら腐らない乾物があるのでは? 
 そのくらいは進んでるんじゃないの? 日本の技術は。
「…………」
「…………」
 まったく猫の生態を知らないおれが口をつぐんだのは仕方ない。
 でも白い重たげなビニール袋を提げた平泉さんは、たぶん怒っていた。


「あの、彼は――?」
 フェンスの向こうで毛玉と遊んでいる町田に気づいた平泉さんが立ち止まる。
「後輩です。おれよりずっと気配りのできるやつなんで、あの子らの世話はやつに任せますから」
 町田は子猫相手にまるで犬の散歩でもするように歩いていた。
 子猫たちも子犬のように町田の足元にじゃれついている。
「ココォ――っ!」
「…………っ!!」
 おれの心臓を縮み上がらせた平泉さんの突然の叫び声。
 常人では飛び越えられない隔壁。
 見えているのに手が届かない場所。
 フェンスに向かい両腕を伸ばして傾いでいく平泉さんの身体を抱き留められたのは、おれ的金メダル。


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