パラダイス、虹を見て。
「今夜の夕食はね、僕ともう一人。ヒサメって不愛想な男が現れるからね」
 そう言って、アラレさんは笑った。
 屋敷で初めて食堂へ行くことになった。
 一応、ドレスアップしたほうが良いのかと思い、慣れないながらも。
 部屋にあるものを使ってお洒落をする。
 ドレスや化粧道具はある程度、ヒョウさんが揃えてくれたらしい。

「カスミちゃん、迎えにきたよー」
 日が傾いて。
 暗くなろうとした頃。
 スーツ姿のアラレさんが現れた。
 昼間はツナギ姿の美少年だったけど。
 スーツ姿を見ると、案外年上なのかも? と思ってしまう。
 髪の毛をバッチリと固めて。
 高級そうな黒いスーツを着て。
 ニコニコしながら入ってくる。

「カスミちゃん、可愛いねえ」
 さらりと、「可愛い」だなんて言ってくれるアラレさんにクラクラしてしまう。
「じゃあ、行こうか」
 とエスコートしてくれるアラレさんに。
 これこそ、紳士だわ…と感激すら覚える。

 うっすら過去の夫たちが脳裏をよぎったけど。
 こんなに優しく、自分のペースを合わせてくれる人なんていない。
 アラレさんにリードされて、階段を降りて、食堂へ向かう。
「女の子、エスコートするなんて何年ぶりだろ? 俺、合ってる?」
 と、歩いている最中、アラレさんが言ってくるので「大丈夫です」と笑って答えた。

 食堂に着くと、まず目に入ったのは、ゆらめく無数の蝋燭だった。
 長方形のテーブルが部屋の真ん中に設置されており。
 その一番奥に男の人が座っている。
「遅い、遅刻」
 はっきりと。
 冷たい声が聴こえて。
 思わず、ギクリと身体を震わせる。
「ごめんごめん。でも、女の子は身支度が大変なんだよお」
 と言って、アラレさんは笑顔でその男性に近寄っていく。
「カスミちゃん、こいつがヒサメ。不愛想でゴメン」
 アラレさんに紹介されて「はじめまして」とあいさつすると。
 ヒサメさんは、じぃーと私を見つめた。
 薄暗くてわからないが、ヒサメさんは私よりも若いように見えた。
 鋭い目でじぃーと私を睨む。
(ヒサメさんもイケメンなんだけどなあ)
 アラレさんはどっちかと言えば、小動物的な愛らしさで。
 ヒサメさんは賢そうな感じがした。

「座れば?」
 思いっきり、上から目線で言われ。
 アラレさんが「あいよー」と返事して、私の椅子を引いてエスコートしてくれる。

 アラレさんがいたから、夕食会は何とかその場の空気が丸くなっているけど。
 絶対にヒサメさんに嫌われてるなあと第一印象でわかった。

 仏頂面でステーキを食べるヒサメさんの姿は美しかった。
 片や隣でアラレさんが美味しそうにはしゃぎながら、お肉をほおばっている。
「めちゃくちゃ美味しいね、今夜の夕食は気合が入ってるねー」
「アラレ。少しは落ち着いて食べたら?」
 冷めた目でヒサメさんがアラレさんに注意する。
 二人を見ていると仲良しなんだなって思った。

「あ、ごめんね。カスミちゃん。こいつ愛想悪くて」
 そう言って、アラレさんは手に持っていたフォークをヒサメさんに向けた。
 フォークを持ったアラレさんの手を、ヒサメさんはバシッと叩いた。
「こいつ女嫌いなだけだから。気にしなくていいからね」
「女嫌い・・・?」
 イナズマさんの言っていた、この屋敷には女はいない。
 それと関係しているってこと?

 ヒサメさんはため息をつくと、こっちを向いた。
「正直話すけど。俺は貴女をこの屋敷に住ますことは反対だった」
「えー、ヒサメ。それ今言うかねえ?」
 ヒサメさんの容赦ない一言に傷ついたかと思えば、
 欠かさずアラレさんがフォローを入れる。
「でも、ヒョウのたっての願いだからOKしたけどさ」
「うんうん。ヒサメは居候だもんね」
 何故か頷くアラレさん。何の説明? と突っ込みたくなる。
「俺はね、貴女がヒョウの妹だからといって、ヒョウ自身を傷つけたら。本当に許さないからね」
 そう言って、立ち上がると。ヒサメさんは食堂を出て行ってしまった。

 あっけにとられていると。
 アラレさんが、
「気にせずに食べよー」
 と言って、笑顔で食事を続けた。
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