パラダイス、虹を見て。
「イナズマさんでも、そんな格好するんですね」
 ラフな格好しか見たことがないので。
 きちんと正装したイナズマさんを見た瞬間、思った言葉をそのまま言ってしまった。
 髪型はいつも通り、ツンツンと立たせているし。
 目つきが悪いのは変わらないけど。
 小柄な身体で、全身真っ黒なスーツを着こなしたイナズマさんは凄く似合っていた。
 胸ポケットには真っ赤な薔薇が一輪、ひょっこりと顔を出している。

 上流階級の人は今や車が主な移動手段だけれど。
 私とイナズマさんは馬車に乗っていた。
 さっきから黙って窓の外を眺めるイナズマさんを見ながら。
 別に送ってもらう必要なかったんじゃ…と思い始める。

 今朝になって。
「ごめん。カスミ。急に仕事が入った。先に行っててくれ」
 とヒョウさんに言われ。
「カスミ一人じゃ不安だから、イナズマに送らせるよ」
 と笑顔で言われてしまった。

 イナズマさんに見つからないように小さなため息をつく。
 夜が濃くなろうとしている。
 舞踏会はやっぱり苦手。
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