パラダイス、虹を見て。
 ヒョウさんはきちんとした余所(よそ)行きの格好で。
 黒いスーツ姿。
 その横で立っている女の子の姿を見て思わず「えっ」と声が漏れた。
 ボロボロの服を着ていた。
 元は白いワンピースだったのだろうけど。
 汚れて茶色になっている。
 顔も汚れてしまっていた。
 簡単に言えば、路上生活していたのかな? と想像出来る姿だった。

 あまりにもの衝撃にぽかんとしていると。
 ヒョウさんが「お、カスミ」と言ってブンブンと手を振った。

「紹介するよ。今日からカスミの侍女になる予定のサクラ」
「……」
 サクラと呼ばれる女の子がこっちを見た。
 目の焦点が合っていなかった。
 こっちを見ているようで見ていない。
 ぼんやりとした目だった。
「よろしくお願いします」
 声をかけると。
 サクラさんは何も言わずにヒョウさんを見た。
「…少し休んでもいいですか?」
 小さな声だった。
 あまりにも辛そうな表情で言うので、ヒョウさんは驚いて。
「あ、ごめんごめん。疲れてるよな。お風呂入って今日はゆっくり休みな」
 そう言って、優しく笑う。
「イナズマー。お嬢さんを案内してあげろ」
 ヒョウさんの一言で。
 車から物凄いスピードで、ヒョウさんが出てきて。
「はい、兄貴!」
 と大声を出した。
「おい、サクラ。行くぞ」
 私には「おい女」とか「小娘」と呼ぶくせに。
 女の子には、きちんと名前で呼んでいる。
 そのことに、「むぅ…」と頬を膨らませたが、イナズマさんが気づくわけもなく、
 あっというまに女の子と一緒に館の中へ吸い込まれて行った。

 残された私とヒョウさんは互いに顔を見合わせる。
「ちょっと、サクラのことで話したいんだけど時間大丈夫?」
「え、ああ。ハイ」
 急に真剣な顔をするので、私の声は裏返る。
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