パラダイス、虹を見て。
 庭園をゆっくりと歩きながら。
 私はヒョウさんの顔を見る。
 木陰では、ニヤニヤとしながらモヤさんがこっちを見ている。
 ニヤニヤしているけど、どうやら会話には参加しないみたい。

 二人でベンチに腰掛ける。
「この前は一緒に行けなくてごめん」
「へ!?」
 舞踏会の翌日、身体を90度近く折り曲げて謝られたというのに。
 今になってまた謝られると、どう対応していいのかわからない。
「謝らないでください」
「嫌な思いしたんでしょ? そこはあえて聞かないけど」
「あ…」
 ヒョウさんなりの優しさだと思った。
 口に出したら泣いてしまうから。

 そよそよと風がなびいて。
 目の前にある花も揺れる。
「サクラはね」
「え、ああハイ」
 急に話題を変えるのでビクリと身体を震わせる。
「落ち着いて聞いてね」
「?」
 首を傾げる。
 整った顔だけど、やはり父の面影があって。
 優しい人だとわかっていても。
 ヒョウさんとは距離があるかに感じる。
 寂しそうな顔でヒョウさんは私を見る。
「サクラは、貴族出身で」
「そうなんですか!?」
「でもね、罪人なんだ」
 ざいにん・・・。

 その単語を聴いた瞬間、
 頭の中で、あの女の子が誰かを刃物で刺し殺している光景が浮かんだ。
「あ、言っておくけど。人を殺したたわけじゃないからね」
「え…」
 まるで心を見透かされたかのような言葉に驚く。
「まあ…、ある人間に対して怖い思いをさせてしまったといえばいいのかな…」
 言葉を濁すヒョウさんに、ワケありなんだろうなと感じた。
「本当は投獄されるはずだけど、流石にそれはねっ…ということで。僕が引き取った。一年間だけね」
「?」
 一年間という言葉に首を傾げるがヒョウさんは、ふぅとため息をついた。
「サクラはね、魔法が使えるんだ」
「まほう?」
 急に一体、何を言っているのだと思った。
 それが、そのまま顔に出ていたのだろうか。
 ヒョウさんは思いっきり笑った。
「カスミ、他国では魔法使いが沢山いるってこと知らないのかな?」
「そうなんですか?」
「この国だけさ。魔法が禁じられているのは。ほかの国では魔法なんて日常的に使われているし、文明だって物凄く進んでる」
「…ごめんなさい。無知で」
 勉強嫌いがここで仇となってしまった。
 恥ずかしい…。
「大丈夫。それよりも、サクラのこと何があっても驚かないでね。ただ、それだけ」
 ヒョウさんは、さっと立ち上がる。

「ごめん。一緒に暮らしているのに、ゆっくりと話せなくて」
「…今日は謝ってばかりですね」
 そういえば、ヒョウさんと二人きりで話すのは。
 初めて会った時以来なのかもしれない。
「仕事に戻らなきゃいけないんだ」
「…わかりました」
 さびしいと思ってしまった。
 一緒に暮らしているのに。
 果たして、サクラって子がどんな人間なのか想像もつかずにいた。
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