花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く
誰もいない教室で、ひとり黙々と国語の問題と向き合う。
最初の問題を解き終わって、さて次の問題へ、とペンを滑らせたその時だった。
──ガラッ、
しまっていた教室の扉が開いた。誰か忘れものでも取りに来たのだろうかと思って目線を上げると、そこにいたのは見慣れた養護の先生だった。
「先生、お久しぶりです」
いつも白衣を着ているけれど、今日は私服なのだろうか。品の良い落ち着いた服を着て、普段は見かけることのない眼鏡がその鼻の上に載っている。
「宗谷くん……、よかった」
なにが、よかったんだろう。
先生は少しばかり息を切らしているようで、ドアのところで深呼吸をして乱れた呼吸を整えている。手に持ったペンを動かすことができないまま、先生から用件を告げられることを待った。
「ごめんなさいね、ちょっと急いでここまで来たものですから」
ふぅ、ともう一度大きく息を吐いて、俺の席までゆっくり歩みを進めてくる。
俺の隣に腰かけた先生からは、化粧品の香りと、少しだけ花の甘い香りがするような気がして。やけに真剣なまなざしに、心臓が嫌な音を立て始めた。
「宗谷くん、華香ちゃんの話は聞いてる?」
その名前に、びくりと体が反応する。
捜していたひと。結局うまい手段は見つからなかったけれど、想いだけは募らせていた。
「いえ、ずっと学校には来てなかったし、連絡先も知らなかったので……」
「そう……」