犬と車椅子と
そこから50メートルほど敷地を歩く。
”カラカラ”と鳴る車椅子の車輪の音が妙に心地よかった。
小鳥のさえずりの様な音だった。
自動販売機の横のベンチに彼女を車椅子から持ち上げて座らせる。
彼女の体を持ち上げる時は、恥ずかしいので息を止めて視線を空中にそらす。
やわらかい感触が腕に伝わる。
彼女を持ち上げる度に体重は軽くなっていた。
そして病院独特のあのツンとする匂いが鼻に入ってくる。

横の自動販売機で缶コーヒーを二つ買う。
俺がブラックコーヒーで彼女はカフェオレだ。
彼女の力じゃプルタブを開けられないので開けてあげる。
”プシュ”という音。
「はい」
「ありがとう」
彼女は笑って一口飲み込んで「おいしい」と言う。
「うん」
俺は少しうつむいて頷き古ぼけたベンチに座る。
”ミシッ”という音がする。

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