昭和懐妊娶られ婚【元号旦那様シリーズ昭和編】
凛の寝顔を見つめながらそう答えたら、彼は納得顔で頷いた。
「ああ。お弁当。青山さまのために作っていたんですね。姉は毎日楽しそうにしていました。でも最近はあまり元気がなくて……」
 確かに、俺に弁当を広げて見せる彼女は目をキラキラさせて嬉しそうだった。
「そうか。休日にでもまた弁当を作ってうちに届けるよう伝えてくれないか? 迎えを寄越すから」
俺が言付けると、彼女の弟は嬉々とした表情で礼を言う。
「ありがとうございます。姉も喜びます」
 なぜこんな約束をしてしまったのか。自分でも驚かずにはいられない。
 彼女が元気がないと聞くと胸が苦しくなる。凛には笑顔でいてもらいたいのだ。
「僕は先に下に降りています」
 にこやかに言って凛の弟は部屋を出ていく。
 彼女の首元で光る金の指輪。
 その指輪を見て、不思議な気持ちになる。
 かつては自分のものだった指輪を凛がしていると、自分のものだと思えてくるのだ。
「おやすみ」
 彼女に顔を近づけて軽く口付ける。
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