昭和懐妊娶られ婚【元号旦那様シリーズ昭和編】
 皮膚が焼けそうだ。
 赤々と燃える炎は怖いが、なにもせずに逃げるわけにはいかない。
 彼の部下はマストから離れ、ここから逃げるためなのか梯子を下ろしている。
 だが、橋本清十郎に構っている場合ではない。
 マストの下に行き、バスタオルを燃えている帆に被せようとするも、焼け石に水だった。すぐにバスタオルにも火が引火して慌てて海に放り投げた。
「無駄だ。逃げろ!」
 橋本清十郎が私に向かって叫んだその時、マストの棒がバキバキと大きな音を立てて倒れた。
「キャッ!」
 慌てて飛び退いてマストの下敷きになるのは避けられたが、まだ助かったとは言えない。
 私の目の前には倒れたマスト。
 真っ赤に燃えていてもう船内には戻れない。私の後ろは海だ。
 水面までは二十メートル近くありそう。
 これでは鷹政さんに知らせに行くこともできない。
 今すぐ雨でも降ってくれればいいのに。
 そんな現実逃避をしてみるが、雨雲はひとつもない。
 絶体絶命。

< 215 / 260 >

この作品をシェア

pagetop