昭和懐妊娶られ婚【元号旦那様シリーズ昭和編】
嗚咽を漏らす彼女を見て、小さい頃の自分と重ねた。
 俺の父親は青山財閥の総帥の長男だったが、祖父の反対を押し切って青山家の女中と駆け落ちして結婚。そのふたりの間に生まれたのが俺で、五歳の時に両親が交通事故に遭うまでは普通の生活をしていた。母はその事故で亡くなり、父は身体に麻痺が残って葉山で療養していて、俺はじいさんに引き取られた。華やかな一族の直系でありながら孤立していた俺。じいさんの後ろ盾がなければ、青山財閥の後継者にはなれなかっただろう。
 厳しい英才教育を受け、周囲に認めてもらうために十歳の頃から祖父について回って経営のことを学んだ。
 青山財閥の後継者としての知識と誇りを祖父に叩き込まれ、そのお陰で周囲にも次期総帥として認められるようになった。
 だが、もし俺が無能だったら、祖父に相手にされなかったと思う。
 青山家で自分の居場所を作るために必死だった。
 この子も自分の居場所が欲しいのだ。
『ねえ、知ってる? 人は空気がないと生きていけないんだよ』
 
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