不器用な恋〜独占欲が恋だと知ったのは君のせいだ
そして、「斗真、呼ぼう」っとメールするのだった。

「行ってくる」

「香恋隊員、健闘を祈る」

ふざけて、心をほぐしてくれた優香の応援を背に、いざ。

カウンター内に立つ人は、いつもの白髪のマスターに面影が似た50代前後の男性だった。

私を見とめても、主任と関連を結びつかないのだ。

どうしました?と微笑むだけ。

私は、顔の下で手を小さく振り、注文ではないことを示した。

そして、主任の後ろに立って、大きく深呼吸。

「聖也さん、その方誰ですか?」

振り向き、驚く主任の腕に抱きついて見つめた。

女性は、どこかで見たことのある顔だったが、今は、それどころではない。

「私がいるのに…よそ見しちゃ嫌です」

自分でも勢いよく出たセリフに驚いている。

ずっと、胸に燻っていた独占欲。

主任にとって、私は、数いるうちの一人でも、私にはただ、ひとりの人。

だから、私以外、見てほしくない。

私だけを見ていてほしい。

だから、顔を真っ赤にさせて頑張っている。

主任は、息を飲んだまま動かない。

勢いで始めたことを後悔しだした頃、腰を抱かれ、床についていた主任の足の膝に私を半分座らせ肩を抱いた。
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