不器用な恋〜独占欲が恋だと知ったのは君のせいだ
すると、バッチリ見ていたらしくニヤニヤとした目、口元に両手を当てていた。

うん、店内の音楽のおかげで、テーブルの席まで、会話は届いていないと信じたい。

お店を出て、いつもなら歩く距離を、タクシーを捕まえる主任。

「あの…私、勢いであんなことしちゃいましたけど、お知り合いだったですよね?私、余計なことしたんじゃないですか?」

「逆に、助かったのは俺。あのタイミングで、話合わせたお前サイコーだよ。あいつ、製品課にいる同期なんだけど、何かとまとわりつかれて迷惑してたんだよ」

「綺麗な方でしたよ」

「嫉妬?」

揶揄うように、こちらを見てくる。

こちらの気も知らずに、余裕な態度が癪にくる。

車中だというのに、彼のスーツの襟を掴んで唇にキスして下唇を軽く噛んだ。

唖然としている主任に向けて、囁く。

「嫉妬です」

一瞬、息を呑んだ主任は、胸に私を抱き寄せ頭部にキスをする。彼の胸の鼓動がドキドキと速く、私の胸の鼓動も追いかけるように高鳴るのだ。

髪を撫でながら、何度も頭部に口付けるたび、欲情を纏った甘い息遣いが、ダイレクトに耳から体中に流れていくようで、私の体は、甘い疼きに侵略されていく。
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