令和最愛授かり婚【元号旦那様シリーズ令和編】
――動揺は、ないんだろうか?


恋人でもない私との間に子供ができたなんて、〝日本の新時代を支える寵児〟と言われるこの人にとって、かなりスキャンダラスで鬱慮する事態のはずなのに、見た感じでは驚いた様子もない。


正直、言い逃れされることも覚悟していた。
だけど、私の予想に反して、彼は涼しい顔。
中途半端に用紙を出したまま、封筒を無造作にテーブルに放った。


「それで、これはどういうことだ」


腕組みをして、軽く顎先で封筒を指し示す。
そこから覗いている書類のタイトルは、人工妊娠中絶手術同意書。
この間、クリニックでもらったものだ。


「どういうって」


彼の想定外の落ち着きぶりに怯みながら、質問の意図を測りかねて言葉を探す。


「私は今八週目です。堕ろすなら、十一週までにと言われて……」

「堕ろす? なぜ」


私の言葉を拾った彼の表情と声に、初めて感情らしきものが過ぎった。


「子供の父親は、この俺なんだろ」


黒須類はなぜか気色ばんで、テーブル越しに身を乗り出してくる。
私は無意識に間隔を保とうとして、背を引いて逃げた。


「あの……なにを仰りたいか、わかりません」


怪訝になって言い返すと、彼は忌々しげに顔を歪めた。
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