令和最愛授かり婚【元号旦那様シリーズ令和編】
ついさっき、実はつわりだったと判明した、ここ最近の胸のムカつきと嘔気。
胃が重苦しくて食欲もないけど、軽いサンドウィッチなら食べられるかと、レジに並んだ。


レモネードと野菜のサンドウィッチをオーダーして、窓に面したカウンター席に座った。
窓越しに通りを行き交うビジネスマンをぼんやりと眺めて、無意識に溜め息を漏らす。


サンドウィッチを摘まんで齧ったものの、やはり喉を通らず、一口だけで残りはお皿に戻した。
胃の上部に込み上げてくる不快感から、意識を逸らそうとして、クリニックでもらった書類を取り出した。


人工妊娠中絶手術同意書。
できる限りの目力を込めて睨みつけ、結局目を伏せ、溜め息を重ねる。


女医さんが見透かした通り、私に〝産む〟という選択肢はない。
私には、結婚を約束した人どころか、彼氏もいない。
それでも、妊娠なんて診断を受けてしまった理由……。


黒須(くろす)(るい)、三十四歳。
一月半前、一夜を共にした人。
彼以外、身に覚えはない。
不本意ながら、彼の名前と顔を脳裏に過ぎらせると、あの夏の熱い夜の記憶が、今でも鮮明に蘇ってくる――。
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