義理のお兄ちゃんの学園プリンスに愛されちゃってます~たくさんの好きをあなたに~
「へぇ、こんなかわいいいとこがいたなんて。黙っておくなんて水臭いじゃないか」
 渉の隣に座っていた、男子生徒が渉をつついた。まだ自己紹介をされていないので名前などはわからないけれど、座っている場所からするに、なにかしらの重要な役職についているとか、あるいはクラスが近いとかそういうことなのだろう。
「離れて暮らしてたから……」
 渉はそのように言った。その顔には微笑が浮かんでいたけれど、梓にその中にある本意はわからない。あとで聞いてみたいような、怖いような。
「そうなのか。じゃあ妹みたいなものだね」
 そう言ったのは、少し離れていた椅子に座っていた会長だった。会長だけあって、専用のデスクと椅子があるようだ。そこについて、にこにことして言った。
 その言葉に梓はどきりとしてしまった。それこそが正解であったので。
 このひとが本当の関係性を知っているはずがない。偶然だ。
 けれどああいう不安を覚えてしまっていたところにそれは、驚きであった。
「……そうだね。妹に近いな」
 渉の答えたそれも、喜んでいいのか悲しんでいいのか複雑な思いを抱いてしまう。
 確かに『妹みたいなもの』は間違いではない。血が繋がっていないのだから。
 でも戸籍上はちゃんと妹という間柄になったのに。
 ……やっぱり不満とか、自慢できないとか……そういうものなのかな。
 またうつむいてしまいそうになったけれど、それはいけない。紹介してもらったのだ。笑って挨拶しないと。
 よって、梓は前を向いた。ちょっと無理をしたけれど、にこっと笑う。
「そうなんです。どうぞよろしくお願いします」
 妹うんぬんについては特に言及しなかった。よろしくとだけ言っておく。
 でもこれでじゅうぶんだ。みんな納得してくれたようだったので。
 梓は自己紹介が済んだと感じたので、小さく礼をして椅子に座った。みんなで並んで座っている長机。その前にある椅子のひとつだ。
「転校してきて間もないんじゃ、大変かもしれないけど。僕や渉もサポートしていくから一緒に頑張ろう」
 にこにこと言ってくれたのは会長だ。肘をついて、手を組んで優しそうな笑顔だった。
「じゃあ、次の子だね。C組の男子……」
 B組男子のあとに梓の自己紹介だったので、その次はC組である。隣に座っていた男子があたふたと立ち上がって、自己紹介をはじめる。
 梓は座ってそれを聞きながら、ちらっと渉を見てしまった。渉は静かにC組男子の自己紹介を聞いていた。
 けれど梓の視線を感じたのかこちらを見てくれた。梓がどう思ったのかはわからないだろうけれど、「妹」と紹介しなかったことに不思議を感じたのはわかっているはずだ。
 そしてそう言った理由は今はやはりわからないのだけど……ふ、と笑った。梓に向けて。
 それは困ったような表情で。どういう理由なのかはやはりはっきりわからない。
 けれど梓はなんとなく感じた。「ごめん」だ。
 それにどういう理由が詰まっていようと、渉が言いたかったのはそれだ。
 そしてそれ以上の『理由』は、帰り道とか……あるいは家で聞くべきことであった。
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