義理のお兄ちゃんの学園プリンスに愛されちゃってます~たくさんの好きをあなたに~
 「ごめん」の視線の理由を聞けたのは、家に帰ってからだった。
 あれから自己紹介も済んで、今日は特に仕事などをすることなく、交流となった。ジュースが出て、席替えをしながら近くのひとと話していく。
 仕事をするのも大事だけど、同じ生徒会になった仲間のことを知るのがスタートだから。
 会長がそのように決めたらしい。
 二年生や三年生にもなれば、役員は役員として固定されるのだそうだけど、一年生はそうではない。梓のクラスのように、くじで決めてしまうような気軽さもある。
 それは熱心でないから、というわけではない。やってみて「自分には合わない」と思ったら、抜けられるだけの猶予を持ってくれているのだ。
 まだ重要な役職につかない間に、「自分に合っているか」「この先もやってみたいか」ということを考える。それがひいては、適正とやる気のある生徒だけを残す結果に繋がるのだ。
 だから梓もこれから続けていくかは実はまだわからないのであった。でもできれば続けたい、と今は思っている。一度引き受けてしまったのだ。投げだすことなどしたくない。向いていないと思っても、とりあえず、一年の間は続けてみたいと思う現在である。


 今日の帰りは別々だった。一年生は交流会のあと先に帰されてしまったので。もちろん梓も帰還組であった。
 なのでちょっともやもやしたまま一人で帰路について、家に帰ってきた。
 家には誰もいなかった。お父さんは仕事で遅くなることが多いし、お母さんもまだ帰っていないらしい。お母さんが帰ってきたら夕ご飯を作るお手伝いをしよう、と思った梓であった。
 でもまだ時間は早かったので自分の部屋で、着替えたあとまったりしていたところだ。やはり初めて参加する生徒会で少し緊張したので疲れてしまったのだ。
 なのでベッドに転がってスマホなどをいじっていた。ネットを見たり、友達に連絡したり。そんなことをしていれば、時間はすぐに経ってしまったし、また、心もリラックスモードになってくれた。
 それが少し変わったのは、こんこん、と自室のドアが叩かれてからだ。
「はーい?」
 お母さんが帰ってきたのかな。思って梓は返事をした。
 けれど帰ってきたのは「俺だけど。ただいま」であった。
 お兄ちゃんだ。
 梓はどきりとしてしまった。
 もう今では同じ家に暮らすことに緊張はほとんどしない。けれど今日起きたことを思うとどきっとしてしまったのだ。
 渉はあの「ごめん」と言いたげだった微笑みの意味を話しに来てくれたかもしれないのだから。聞きたいような、怖いような。
 でも聞かないのはもっと怖いし、それに逃げることもできない。
「お、おかえりなさい」
 言いながら起き上がってベッドから降りる。ドアへ向かった。
 一応かけていた鍵を開けてドアも開ける。そこにはマグカップを持った渉がいた。
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