ホオズキの花 〜偽りから始まった恋の行方〜
「あなた達の親子喧嘩のせいで、うちは信用を失いかけてる。変な噂がたって、息子にこの席を任せる道も遠くなった。」
私は、知らなかった。なんの関係もない神谷家の名が、私のせいで傷つくことになっていたなんて。まるで想像すらしていなかった。
「......だから、もうあなたの顔なんて見たくないわ。帰ってちょうだい。」
一瞬戸惑い、心臓の鼓動が速まる。
でも......、それでも......。ここで簡単に引くわけにはいかない。そんな思いが脳裏をよぎった。
「私のした事でお怒りになるのは、当然のことだと思います。何を言われても、仕方のないことをしました。」
「ええ、そうね。」
「でも、無理を承知でお願いします。どうかもう一度だけ、父の病院への出資の件、考え直してはいただけないでしょうか。」
私は、恥を忍んで頭を下げた。すがるような思い。こんな無茶をしたのは初めてだった。
すると、影が動いた。絨毯に沈む足音はだんだんと遠のいていき、椅子がくるりと回る音がかすかに聞こえた。
「あなた、何のためにそこまでするの?」
神谷さんの呆れたような声。
「もう縁を切った家族のために、どうして頭を下げるの?」
ため息に混ざって言う言葉。私がちらりと視線をあげると、社長机の大きな椅子はこちらに背を向けていた。