ホオズキの花 〜偽りから始まった恋の行方〜
何のために......
自分の心に問いかけるようにそう考えた時、なぜか頭に浮かんだのは、千秋さんの顔だった。
後ろからそっと添えられた手に、行ってこいと背中を押されたような感覚。ふわりと気持ちが軽くなり、自然と勇気が出た気がした。
「たしかに、もう関係ないかもしれません。娘の幸せより病院を選ぶような人です。お金に変えられたんだって、正直悲しかった。」
自分でも呆れて、笑ってしまいそうになる。
私は、お父さんや病院のために、精一杯努力してきた。興味のあったものも全て諦め、私がやるべきことは決まっているのだと疑わなかった。
それが、こんな結末を迎えることになるなんて、誰が予想していただろうか。
――家族への愛が強すぎただけ
ふと、千秋さんの言葉が思い出される。
私にとってそれは、魔法の言葉。知らず知らずのうちに強張っていた顔の筋肉が、その言葉を思い出すだけで不思議と和らいでいった。
そして、力が湧いた。
「でも、それでも、私にとってはたった一人の父なんです。27年間、ずっと病院のために生きてきた。それが私の生き方でした。縁を切っても、私に残ってる唯一のプライドだけは守りたいんです。」