ホオズキの花 〜偽りから始まった恋の行方〜

 すると、椅子がゆっくりと回り出した。同時に神谷さんが顔を見せ、私に向かって強い視線を向けてくる。

「私、全部知ってたわ。出資の条件を出した時から、あなたに結婚相手がいること。お姉さんと結婚した、彼のこと。」

 何を言われるかと思えば、想定外のこと。頭が真っ白になり、動揺を隠せなかった。


「そんな、どうして......」

「息子は見ての通り、社交的とは言えなかった。結婚になんて興味もなくて、会社すら継ぐ気はないと言い出す始末。でも、それでは困るのよ。」

 頭を抱えたように俯きながら、声を荒げだす神谷さん。

「主人ももう長くはないし、代々受け継がれてきたこの会社も他人に任せるわけにはいかない。だから、こうするしかなかった。私にはこの会社と社員を守る義務があったから。」

 そして、感情のままに立ち上がり、ウロウロと歩き出す。

 私はその場に立ち尽くしたまま言葉を失うと、無意識にギュッと手に力が入り、腕に少し爪が食い込んだ。


「あなたのお父さんは、どんな条件でも出資のためなら受け入れるだろうと分かってた。悪いとは思ってるわ。でも、息子の相手には、公私ともに支えてくれる人でなくてはならない。お姉さんではダメだった。」

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