ホオズキの花 〜偽りから始まった恋の行方〜
「あの、私に怒っていらっしゃるのは当然だと思います......。こんな話、聞きたくもないかもしれませんが、聞いて欲しいんです。」
私は、変わった。もう、操り人形なんかじゃない。敷かれたレールの上を歩いていると思っていた、あの頃の私はもういない。
振り返れば、足跡はしっかりと刻まれている。地に足をつけて、自分の足で歩いてきた痕跡が、今ならちゃんと見ることができる。
私は言いなりなんかじゃない。お父さんに喜んで欲しいと、お父さんの力になりたいと、ずっとその一心でやってきたことだった。
だから、あの病院を守る。
私は、そんな謎の使命感に囚われていた。
「きっと神谷社長や奥様なら、瀬川総合病院があの街の患者さん達にどれだけ必要とされているか、よくご存知のはずです。」
あの病院は、お父さんに初めて必要とされ、任せたいと言われた場所。その場所がなくなってしまえば、今までしてきた27年の努力が意味をなくしてしまう。
最後に、あの家での生き方を守りたかった。
「だから、どうか、力を貸していただけきたいんです。私がしたことは許されないかもしれませんが、あの病院は――」
「本当にご実家のこと、何も知らずにきたのね。」
意気込んでした必死の訴えは、神谷さんの心には響かなかったようだ。私の言葉は遮られ、落ち着き払った顔でこちらを見つめてくる。
いつの間にか、窓ガラスに打ち付けていた雨も止み、辺りは静けさが増していた。