恋する乙女はまっしぐら~この恋成就させていただきます!~
翌朝、目がさめてテーブルに飾られた小さな花束を見て、昨日の出来ごとが夢ではないとほっとする。

昨日、朝から気持ちを落ち着かせるために作ったマドレーヌ。

ホテルを出たあと一緒に夕食をとり、家まで車で送ってくれた先生に別れぎわに差し出すと、先生は車のトランクから小さな花束を取り出しぶっきらぼうに差し出した。

「今日から付き合いだした記念のプレゼントだ。恋人だったらこういうときは贈りものをするもんなんだろ?
くそっ、花なんて買うのも渡すのも生まれて初めてだ」

恥ずかしそうに片手で前髪をかきあげながら、なかなか受け取らない私に先生はぐっと花束を押し付けた。

赤いバラ一輪にかすみ草を添えた小さな花束。

「先生、ありがとう」
嬉しくてもらった花束を握る手に力がこもる。

「花。花ならお前にやってもずっとあとまで手元に残らないからな。
後々形に残るものは渡すつもりはないが、そんなに花ひとつで喜ぶならまた…あぁ、また会うたびに贈ってやる。一応俺は恋人だからな」

ぷいっとそっぼをむいてまた髪をかきあげた先生の横顔は、少し照れているのか、耳が微かに花の色と同じような赤に染まっている。

先生はこの花束の意味を知って私に贈ってくれたのだろうか。

一本のバラの花言葉。



"一目惚れ、あなたしかいない"


「そんなこと知ってるわけないか。ふふっ、一目惚れしたのは私のほうだよね。あーあ、そんな夢みたいなこと1ミリもないだろうけど、そうだったら…いいのにな…」

花瓶から取り出した花束を麻ヒモで根元を固く結び壁のフックに逆さに吊るす。

「ふふっ。
先生は知らないみたいだけど、花だってちゃんと形に残せるんだから。

今より色はあせちゃうけど、ちゃんといつまでも…。大事にとっておくんだ」

先生がはじめて私にくれたプレゼントだ。

一生私の宝物にするんだ。
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