【電子書籍化】悪役令嬢は破滅回避のため幼女になります!
 長い夢を見ていた。悪夢のような運命を悟ってからの、血の滲むような努力の日々を。

「ううっ……」

 声帯は潰れていなかった。それもうめき声を上げられるだけの力はあるようで安心する。

(私、完成した薬を飲んで……?)

 落ち着くまで目を閉じて不快感をやり過ごしていると、一分ほどで症状が止まる。今後の改良のため、経過観察にも抜かりはない。
 仰向けの状態から手を伸ばすと、伸ばした手は自分のものとは思えぬほど小さかった。

「やった!」

 イリーナは起き上がり、身体にまとわりつく衣服を引きずって進む。やがて歩くのが面倒になり、這いずって鏡の前までたどり着いた。
 そこに映っているのは十七歳の少女ではなく、六歳ほどの幼女だ。思わずぺたぺたと顔をさわってしまう。

「うそ若い! 研究続きで寝不足の肌はつやつやだし、目つきの悪さに拍車をかけてたクマも消えてる!」

 等身は縮み、瞳は大きくあどけない。

「けど、やっぱり魔力の巡りは悪くなってる」

 試しに魔力を掌に集めてみるが、十七歳だった頃よりコントロールが悪くなっている。

「この身体だと大きな魔法は使えないかな。でも!」

 勝った――
 イリーナは小さくなった拳を突き上げた。

「ここからは私の演技次第ね」

 にやり……
 その表情はとても幼女が醸し出せる邪悪さではなかった。
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