癒やしましょう。この針で!!~トリップしても根性で乗り切ります。
治療院でのお仕事


 ***


「おはようございます」

 愛来はいつものように元気に挨拶すると治療院の中へと入っていった。初めて愛来がこの治療院へとやって来た日から、三ヶ月の月日が経っていた。

 愛来がこのライデン治療院に足を踏み入れた日は、本当に色濃い一日だった。リミルに連れられ、城下町の市で楽しんでいると、ギルちゃんと出会って、その騒ぎのおかげでライデン先生の治療院で働かせてもらうことが出来た。

 初めこそ愛来をよそ者扱いし、厭うていた人々も今ではすっかり愛来を受け入れていた。



 さて、そろそろ予約の患者さんが来る頃かしら。


 愛来は急いでテーブルの上や診察台などをぞうきんがけし、ふっと一息つくと、治療院のドアが開いた。

「おはようさん。先生、聖女様今日は家でとれた野菜持ってきたから後で食べてくれ」

「いつもありがとうございます。ロッドさん、それと何時も言ってますが、私は聖女なんかじゃ無いです」

「何を言ってるんだ、賢者宗次郎の孫娘で同じく針で人々を癒やすその力を持った、あんたはどう考えたって聖女様だろう?」

 もうこの会話も何度目だろうか?

 聖女だなんて、本物の聖女が現れたら鼻で笑われちゃうよ。

 ロッドさんは初めてこの治療院で治療をした人だ。ギルちゃんと出会ったあの日、腰を痛めたロッドさんの後を追い、この治療院までたどり着いた。

 愛来はこの世界での治療に興味を示し、ここで働かせてほしいとライデン先生に頭を下げた。するとライデン先生は愛来をジッと見つめ「クックックッ珍しい客人が来なさったな」と笑い、診察室へと通してくれた。診察台にはロッドと呼ばれた男性がうつ伏せに横になっていて、その横でロッドを運んできた二人の男性が心配そうに眉を寄せていた。


「さあ嬢ちゃん、早速で悪いがこやつを見てやってくれ」


「おいおい先生、何を言ってるんだ。こんなお嬢ちゃんに何が出来るって言うんだ」

 ロッドがうつ伏せのまま声を荒げると、腰に響いたのか「うっ」と言ったきりしゃべらなくなってしまう。

「あまり大きな声を出さないで下さい。腰が痛いのでしょう?診察していきますね」

 愛来はロッドの首へと手を伸ばし施術をを始める。それを見ていた二人が冷ややかにあざけ笑う。

「おい、そこは首だぞ。痛がってるのは腰だろうが」

「分かっています。腰痛は首からくる人も多いんです。あっ……ほらここ、最近足のしびれとかなかったですか?」

 愛来の言葉にロッドが目を白黒させながら驚いていた。


「嬢ちゃん何で分かるんだ?最近仕事終わりになると右足がしびれるんだ。だが俺は農家だし、何時も中腰や屈んでの作業が多いから、いつものことだと思っていた」

 なるほどね。

 だからこんなになるまで、我慢しちゃったんだ。

 これは、あれしかないわね。

「お名前ロッドさんでしたっけ?これから腰に針治療を施しますね。痛くないので動かないで下さい」

 愛来は両手のひらを合わせ指を組み合わせると、目を閉じ心の中で呟いた。


『針をお願い』


 すると手から光があふれ出し、針が現れた。


 突然詠唱もなく針を召喚した愛来を小馬鹿にしていた男性二人が、口をあんぐりと開けたまま放心し見つめていた。二人は愛来の手のひらにある針を凝視し何もしゃべらない。

 うつ伏せになっているロッドからは何が起きているのか分からずに、不安だけが募っていく。

「おい、何で誰も何も言わないんだ?今の光は何だ?針ってなんだ?」

 ロッドの口から疑問符だらけの言葉が続く。

「では針を刺していきます。痛くないので動かないで下さい。動くと危険ですからね」

「ちょっ、まて、何をするって?」

 愛来はロッドの腰部分に触れると針を三本刺していく。それを見ていた男性二人は驚愕の眼差しで見守っていた。

「はい。終わりました。これで二十分ほどおきますね」

 愛来から終了の言葉を聞くと男性二人は顔を見合わせ、ゴクリとつばを飲み込んだ。

「おいロッド腰、痛くないのか?」

「これといって痛みは無い……」

 ロッドに声をかけなかった方の男性が、言ってもいいのかと言い淀む。

「ロッド……その針かなり深く入っちまってるけど大丈夫なのか?」

 ロッドが首を傾げ右手で腰に触れようとしたため動かないよう、もう一度念押した。

「針を刺した感じはしなかったが、嬢ちゃんどうなってるんだ?」

「この針は髪の毛と同じぐらいの細い物を使ってるんです。だから痛みはほとんど無いと思いますよ。さあロッドさん後十五分ぐらいで終わりますから休んで下さい」






< 18 / 72 >

この作品をシェア

pagetop