癒やしましょう。この針で!!~トリップしても根性で乗り切ります。
「そう言えば愛来、ギルの餌はわかったのか?」
「そうなんです!!やっと分かったんです!!」
愛来は肩にちょこんと乗っているギルのもこもこの体を撫でながら瞳を輝かせながらライデンに話し出した。
愛来が初めてライデン治療院を訪れ、ギルに出会ったあの日。
ギルを王城に連れて帰ると、大変な騒ぎとなった。
城の門を一歩踏み入れた瞬間に警報ブザーのような音が城内に鳴り響き、沢山の騎士達が愛来を取り囲むと剣を向けてきた。
愛来は銀色に光り輝く妖しい剣のきらめきに、心臓がバクバクと音を立て背中に冷たい汗が流れるとゾクリと震えた。
何?
怖い。
助けて。
助けて……。
愛来が救いを求めるのは金色の髪のあの人。
翡翠色の瞳の王子様。
「……ウィル」
震える声で愛来はこの世界で一番信頼している人の名前を呼んだ。
「愛来!!」
そう叫けびながらやって来たのは、慌てた様子のウィルとアロンだった。ウィルは愛来の肩に乗っているガギル・ドラコの存在を確認するすると、右手を前に突き出し指を鳴らすと、金色に輝く魔方陣が出現し剣が召喚される。
「ガギル・ドラコよ。切られたくなければすぐに愛来から離れろ」
ウイルの翡翠色の瞳が怒りで赤く揺らめくのが見えたその時、ギルの体が銀色に輝きウィルに向かって炎の塊を吐き出した。ウィルは向かってきた炎の塊を剣を使い空へと弾き飛ばす。
「クソッ……手加減なしだな」
愛来はギルがウィルに攻撃を仕掛けたことに驚き、肩に乗っていたギルのもこもこの体を抱きしめた。
「ギルちゃんダメーー!!どうしてこんなことをするの?人を傷つけたりしたらダメだよ。わかった?メッだよ。メッわかる?」
愛来の言葉にギルが可愛らしく「キュイン」と鳴き小さな尻尾をフリフリと振ってきた。
ギルちゃん尻尾あったんだ。
可愛い。
愛来の親指よりも短い尻尾はちぎれんばかりにフリフリと振り、ギルはこてんと首を傾げる。
もう、私は怒ってるのに……。
ギルの可愛らしい仕草に愛来の口元が緩む。
「かっわいいーー!!」
体から沢山のハートが飛び出している愛来の姿にウィルとアロン、その後ろに控えていた魔法騎士団の騎士達は唖然と見つめていた。
「これは……どういう状況なんだ?」
それを聞いて、それまで愛来の後ろに控えていたリミルがウィルの前に跪き口を開いた。
「殿下、申し上げます。愛来様とこちらのガギル・ドラコは先ほど契約を交わしております。そのため愛来様に危害を加えない限り魔獣といえど、暴れることは無いかと……」
それを聞いた魔法騎士団の騎士達の口からどよめきが広がっていく。
「魔獣と契約とかありなのか?」
「いや、なしだろ」
「愛来様ならありなんじゃないか?あの悪魔王子ウィル殿下を懐柔してるって噂だ。魔獣だって懐柔出来るだろう」
「すげぇ、さすが聖女愛来様」
口々に愛来を讃える声が飛び交ったのは言うまでも無い。
「ほら、ウィルも怖い顔をしないでください。仲良くしないと二人ともメッよ」
そう言って愛来がウィルにの頬をペチンッと叩いて「メッ」と諫めた。
愛来のその行動や発言をもはや不敬と言う者は誰もいなかった。
それというのも愛来にメッと諫められたこの国の王太子が、「ぐっ……」っと喉を鳴らし叩かれた頬をさすりながら顔を赤く染めて嬉しそうにしているのだから。
誰も何も言えない……。言えるわけが無かった。