やわらかな檻
 小父さまも光源氏を現代版にしたら候補に挙がりそうな顔立ちだし、兄弟揃って男親に似ていると言えるのかもしれない。

 慧が髪を切るとこんな風になるのだろうか。

 想像してみてすぐ打ち消した。

 滲み出る偉そうな雰囲気は生きてきた背景が全く違う慧には出せない。出せなくて良かった。

 その薄い唇が緩やかに弧を描く。


「来年以降もずっと、になるだろうね。君と二人でご飯を食べるのもこれが最後だ」


 左手に嵌った指輪を見て、エスコートしたくなるような本命の彼女が出来たのだろうか、とぼんやり思った。

 それならばさぞ彼女にとって私の存在は気がかりだっただろう。

 社交の場で弟子でも恋人でもなく、弟の婚約者を連れ歩く仁科家の次期当主。

 胡乱な目で見られているのは分かっていた。


 ――今日、わざわざ全席個室のレストランを選んだのはこのためか。

 何故と何も考えずに私が訊いて、まるで別れを切り出された恋人のように見える態度を取ったとしても問題ないように。

 彼は彼で何らかの反応をして欲しかったようで。

 小さく頷いたきり、またケーキに手を出し始めると楽しげに尋ねてくる。


「寂しいかい?」
「全然」


 そっと寄せられたケーキの皿は、にっこり笑ってつき返した。

 寂しいなんてまさか。ただ、数年振りに婚約者と過ごすクリスマスをどうしようかと悩んでいるだけだ。

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