やわらかな檻
 定期的に食事をして慧の情報を流したり、パーティーに出てエスコートされれば私達のことを放っておいてくれると次期当主と約束した。

 箱庭の平穏を守るために私が出来る唯一の方法だった。

 慧もそれは知っていたはずだった。

 いつも散々恨み言を重ね、それから仕方ないと言って私を送り出していたではないか。

 詰まった先にある言葉を見抜かれる。
 それは嫉妬しない理由にはならない、と。


「ここ数年、私がどんな思いでこの日を過ごしていたのかご存知で?」


 当ててしまえばその先に待ち受けている展開が恐ろし過ぎ、外してもそれはそれでお仕置きされそうな気がした。

 前門の虎後門の狼。
 どちらを選べばマシかなんて考える時間も与えられず、視線は逸らすことを許されずに。逃げる手立てはとうの昔に自分から捨てた。

 それでも、言わなくてはやってられない。


「……ずるい」
「知っているでしょう」

 睨んだ私を無視してのたまった慧は、この上なく綺麗な笑みを浮かべてささやく。

「――さて、何で償って頂こうか」


 足元には慧と出会った年から二つずつ買って溜まった二十個のオーナメント。

 玄関に飾っていたツリーにはとうに飾りきれなくなっているそれら。

 必死の攻防の末、私は『もっと大きなクリスマスツリーを贈られる』ことを約束させられた。
 何十個でも、好きなだけオーナメントを飾ることが出来るものを。

 こうして、また枷が増えていく。


【了】
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