やわらかな檻
「私がそれを望みましたか?」

 手首より少し上の辺りに鈍い痛みが走る。無様に腕が揺れることはあっても彼女の両手では拘束は解けない。


「そうだけど、でもっ」
「聞きなさい、小夜」

 抵抗が止まる。


 全て嫌で仕方なかった。僕の鬱屈した気持ちが分からない彼女も、彼女なら分かってくれるだろうと勝手に期待して落胆した自分も、自分は振り払ったくせして捉えた手を彼女に拒否されることに苛つくのも――…育つ境遇の差も、全て。

 彼女と僕は、根本から違うのだ。


「ここにはクリスマスはありません。これからもずっと、クリスマスもなければサンタクロースも来ないし、パーティーもない」


 分かっていた筈なのに、受け止め切れていなかった。

 彼女と過ごす居心地の良い時間が誤解させていた。忘れさせていたとも言えるかもしれない、出会った初めの頃ならこんなに傷つかなかっただろうから。

 ゆるゆると手を離していく。せっかく自由にしてあげたと言うのに縋るように彼女の手が追いかけてきて、僕は両手を身体の後ろで組んだ。

 触らせない。その決意が伝わったのか、着地点を変えて和服の裾を掴まれたのに淡い喜びを感じる。それも嫌。


「それが分からないなら、もう来なくて構いませんから」


 たとえ分かったとしても、もう受け入れられそうにないけれど。
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