やわらかな檻
 けれども、馨は違った。
 大義名分も口実もあり余っているのだ。


「さや?」


 スポーツドリンクをちびちびと飲んでいた彼女は退屈そうに小さく息を吐き……それから、馨を見て目を見開いた。

 嬉しそうに表情を綻ばせ、口を開こうとする。しかし、その形の良い唇が動くことはない。

 足首のアンクレットが、微かな音を立てていた。


 馨が近付くと、彼女への注目は一斉に外れた。


 間違ってもこのパーティーの主催者の息子に、不躾な視線など送ってはいけないからだ。
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