やわらかな檻
 彼女は何かを探すように周りを見渡してから、ゆっくりと微笑む。


「久し振り、馨。その名前で呼ばれるなんて思ってなかったから、びっくりした」

「もう二度とないと思っていたから?」

「……まあね」


 薄っすらとした笑み交じりに馨が付け足すと、小夜は曖昧に頷く。

 顎を上げまっすぐに馨の目を見て、彼女は言った。

 会話する時、きちんと馨の目を見る癖だけは相変わらずだ、と馨は思う。


「だって、私の名前は小夜(さよ)だもの」
「……話を逸らすのが上手くなったね、さや?」


 くすくすと彼女は笑みを漏らす。

 子供の頃と同じ、ほのぼのとして穏やかな空気が二人を包んでいた。
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