やわらかな檻
 本妻は少女のような人だった。


 もちろん外見は茶道の家元の妻らしく淑やかで一歩下がってついていくような大和撫子そのもの。

 所謂和風美人ではあったが、中身は少女そのものだ。


 それは純粋という意味でもあり、他人の迷惑を顧みない子供っぽい部分を持ち合わせている、という意味でもある。



 長男は優しそうで、かつ頭の良い子供だった。

 あえて言うのであれば、奴から悪癖やら短所やらを全て取り除いたような子供だった。

 外見は完璧に奴譲り、そして跡取りとして自分がどう振舞うべきか、完璧に分かってしまっている。


 まだ大人とは言えぬ彼が、どうしてこのような全てを弁えた大人の瞳を持っているのか。

 いや、持たなければならなかったのか。
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