やわらかな檻
 ややすると手招かれたので、素直に近寄った。 

 彼は、乱れた私の着物を簡単に直してから両腕を腰に回す。

 引き寄せられる。
 抵抗など、もうしない。


「貴女が、私なしで生きられなくなったその時には」


 耳元で優しくささやかれる、けれど決して優しくない言葉。
  
 彼の膝に乗り、均衡をとるため彼の肩に手を置く。ソファの上で抱き上げられているかのような格好で。


 彼の腕の中はやわらかな檻だ。

 優しく甘く、真綿に包まれ。けれど、出ることは許してくれない。


 真上から見た彼の瞳は、変わらず美しかった。
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