やわらかな檻
「――最悪」


 でも、何故。私は嫌ではないと思ってしまうのだろう?

 一すじの黒い線が、ぱさりと彼の頬に落ちる。彼は片腕を更に回して、空いた片手は私の髪を手に取り。


 そのまま、唇へと。


 それを見たくなくて、私は顔ごと視線をそらした。

 元々弱っていて、力尽きてしまったのか。それともどこかから隙間を見つけて、逃げていってしまったのか。


 もう、紋白蝶の姿は見えなかった。

【紋白蝶、終】

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