やわらかな檻
 本当はスカートのポケットの中に、二つ折りにされた桃色の短冊が入っている。

 文机の上に置かれ、今は紙くずと化した短冊は慧の行動を考えての偽物だった。


「一つしか願いが叶わないのなら」


 至近距離で、漆黒の瞳が私を射抜く。囁きは甘い毒のようだった。

 その甘さが浸透しくらくらして頭が痛くなり、何度も摂取しているうちにやがて神経が麻痺していく。

 何も考えられなくなる。


「私の願いは貴女だけですよ――」


『慧が私から解放されますように』

 ポケットの中に入っていた短冊を、布地の上からぐしゃりと握り締めた。

 慧の願いと私の願い、どちらが叶うのだろう。

【七夕/終】


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