やわらかな檻
 それは嘘だ。無駄になんてなっていない。


「無駄、じゃないもの」


 小さく呟いた途端に腕をとられ、強く引き寄せられる。

 力に逆らわず膝をつくと、すぐに視界が彼の着物の色に支配された。

 腰に手が回るのは繋ぎ止める為。くいと顎を掴み、無理やりに視線を合わせるのは私を惑わす為。

 ……では何故、こんなに悲しげなひかりを宿しているのだろう。


「まだ、短冊に残りはありますか?」
「……ないわ」


 これも嘘。

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