やわらかな檻
 薄紫に小花を散らした小紋は春の、満開の桜に似合うだろうなとぼんやり思った。


「……それを覚えてらっしゃるなら、花売りの会場も分かると思うのですが」


 ただこっちとしては良い迷惑で、連れ回されてさっきから突き刺さる好奇の視線がどんなに痛いことか。

 決めた、会場に着いたら捕まえられる前にすぐどこかへ非難しよう。

 引き止められても絶対そうする。

 わざと冷たい視線を送れば、小母さまは軽く肩を竦めてパンフレットを開く。

 パラパラと中を捲り始めた。


「だって一人で歩くのは寂しいんだもの」


 久々に見た、生粋のお嬢様。
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