やわらかな檻
 ただ、幾つもの花束を抱えた男性は確実に目立つ。

 周りもざわつくと思うし、ついさっきすれ違ったなら絶対に気付くはずなのに――どうして。

 それに欲しい花束が分からないってどういうこと。


 考えれば考えるほど謎が深まっていくが、あまり長く後輩を拘束すると叱られてしまう。

 暇なら働けと言われる可能性だってあった。


「分かったわ。わざわざ出て来させちゃってごめんなさい、ありがとう」


 そう言って後輩を売り子の仕事に戻すと、私は振り向いて小母さまに向かい頭を下げた。


「申し訳ありません、この通り今日の花束は全て売り切れてしまったようです。また明日来て下されば取り置きをお渡ししますが、いかがでしょうか」

「さすがね、高校二年とは思えないほど大人びてる。どうもありがとう」
 
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