離縁するはずが、エリート外科医の溺愛に捕まりました


「おかえりなさい」


 十日会わなかっただけで緊張が全身を包み込む。

 きっと、会わなかったからだけではない。

 今から話すことが怖くて、逃げ出したい気持ちがあるからだ。


「ただいま」


 久しぶりに聞く達樹さんの声。

 いつもの帰宅時みたいな明るさと柔らかさはないけれど、変わらず元気はありそう。良かった。病院にいると聞いていたから、少し心配していた。

 その手にはメッセージで頼んだ合挽き肉だと思われるビニール袋が下がっていた。


「ハンバーグ、作りましょっか?」


 まだ本題には入りたくなくて、遠ざけるように達樹さんをハンバーグ作りに誘う。

 達樹さんは快く「そうだな」と微笑んだ。

 ふたりでキッチンに立ち、手を洗いハンバーグ作りを開始する。

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