離縁するはずが、エリート外科医の溺愛に捕まりました
「違うな。焼きたくない、だ」
「え……?」
「だって、これを作って食べたら、もう私たち終わりなんですよね?」
気持ちが抑えきれなくなって、とうとう目からは溜まった涙が溢れ出した。
涙を隠すことなく達樹さんを見上げる。
私の顔を見下ろす達樹さんは、どこか驚いたように私の目を見つめた。
「みのり……」
達樹さんの声が私を呼ぶと、涙は次々溢れ出す。
「嫌ですよ、そんなの……」
達樹さんの手が火を止め、その手が私を引き寄せる。
ギュッと力強く抱きしめられ息が詰まった。
頭の上から、なぜだか気の抜けたような深いため息が聞こえる。
「なんだ……じゃあ俺たち、同じ気持ちってことか?」
え……同じ、気持ち?
「てっきり、離婚の意思は変わらないって、そう言われると思って覚悟してた」
達樹さんの真剣な声が耳に届く。
「俺の気持ちは、一カ月前と何も変わってない。いや……あのときよりもっとみのりのことが好きになった」
飾らず気持ちを告げてくれる達樹さんを、私からも腕を回して抱きしめる。