離縁するはずが、エリート外科医の溺愛に捕まりました


「私、本当にこういう体験がないので、引かれるくらいいろいろ未経験で……って、もう引いてますよね」

 自分で言って自分でツッコミ、「あはは」っと笑う。

「いや、別に何も引かない」

「えー、嘘。絶対少しは引きますよ」


 波打ち際近くまで近づいていくと、さらさらの砂が固まっていく。

 波の音と黒い海を前に、達樹さんは私の手を握ったまま足を止め海を見渡した。


「なんでもそうだけど、〝こうでないといけない〟なんてことはないと思ってる」

「え……?」

「人それぞれだろ。だから、みのりが今の歳まで恋愛経験がなかったことも、俺は別になんとも思わない」


 恋愛経験がないことは、年々一種のコンプレックスのようなものになっていた。

 それは歳を重ねるごとに重く、深刻に。

 それをこんな風に言ってもらえるのは、私という人間を認めてもらったようでなんだか嬉しい。

 人それぞれ。

 私は私のペースで、いいっていうこと……?


「むしろ、俺としてはありがたいことだしな」


 達樹さんは意味深な言葉を口にし、海を見つめる私を覗き込む。

 訳がわからず達樹さんを見上げると、なんの予告もなく唇に触れるだけのキスを落とされた。

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