離縁するはずが、エリート外科医の溺愛に捕まりました


 バレてる。どう繋いだらいいのかわからない手の状態に気付かれてる。 

 とぼけようとした私を達樹さんはクスッと笑い、繋いでいる手を持ち上げる。


「なんか、来なさいって言われて手引かれてる子どもみたいな繋ぎかた」

「え、だって、よくわからなくて。力の加減とか、どうしたらいいのか……」


 指摘されて説明することが恥ずかしすぎて、言い訳しているみたいな口調になってくる。

 ちらりと顔を上げて達樹さんを見上げると、夜の闇の中で視線が重なり合った。

 フッと笑い「可愛いな」と達樹さんは呟く。


「普通に握ればいい、こうやって」


 達樹さんは空いているほうの手で繋いだ手を包み込み、私の強張る指を撫でる。

 促されて、緊張を高めながらも自らわずかに力を入れて彼の大きな手を握ってみた。

 今が夜の闇の中で良かったと心底思う。

 手汗もだけど、顔も熱くなっているのを感じるから、たぶん赤くなっているに違いない。

 こんなに赤面症体質だったっけ?と、昨日達樹さんと過ごしだしてから何度も思っている。


「なんか……デートぽいですね」

「ぽいってなんだ、ぽいって。立派なデートだろ」


 手を繋いで密かにドキドキしながら歩く夜の海岸。

 和やかな言葉のキャッチボール。

 そうか、これがデートか。と今になってやっと実感する。

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