「君は運命の相手じゃない」と捨てられました。
ミアの遺体が森で発見された。

何らかの事件に巻き込まれたと思われる。

現在も騎士が捜査をしている。

ディアモンは休学届けを出しているそうだ。ショックが大きいのだろう。

「アドラー伯爵令嬢がやったんじゃないのか?」

教室中がミアの話題で持ち切り。何となく居心地の悪い思いをしていると獣人の一人がそんな言葉を発した。

教室は一時騒然となる。

私は獣人の方を見た。ミアとディアモンの恋を応援していた下級貴族。ヤギの獣人だ。

「何を根拠に?証拠でもあるの?」

「その発言こそが犯人である証だろ」

「ああ、確かに推理小説とかでよく犯人が言うセリフだよな」

と、羊の獣人が続く。

私を含め常識人は「馬鹿か」と彼らと彼らを擁護するように私を睨みつける連中を見る。

私は彼らを挑発するように嘲笑を浮かべた。

「お可哀想に。現実と物語の区別がついていないのね。推理小説の探偵を気取るにしてもお粗末な推理だわ。いいえ、推理とも呼べないわね。証拠もなく、人を犯人扱いだなんて」

私の言葉にヤギと羊の獣人はかっと頬を赤く染めた。

馬鹿にされたことに対する怒りだろう。こんな安い挑発に乗るなんて。

「動機なら充分すぎるぐらいあるだろう。お前はジュノン様の婚約者だったんだから」

負け惜しみのように言ってくるヤギの獣人と「そうだ、そうだ」と賛同してくる馬鹿どもを鼻で笑い飛ばしてやる。

「殺意を抱いただけで殺人罪に問えるのならあなた方を今から捕縛してもらわなければならないわね。まぁ、どのみちアウトだけどね。上位貴族に刃向かっている時点で。身の程を弁えなさい」

「っ」

ヤギと羊、その他の獣人たちは悔しそうに奥歯を噛み締める。

「け、権力を笠に着るなんて卑怯だぞ」

羊の獣人が吠えた。

負け惜しみね。

「女性相手に複数人で噛み付く貴様らは卑怯者にはならないのか?」

私の後ろで成り行きを見守っていた犬の獣人がヤギたちを睨みつける。

獣人は強き者に従う節がある。獣としての本能がそうさせるのだろう。

犬の獣人に睨まれたヤギたちは先程までの威勢はどこへやら。

猛獣に睨まれた小動物のように体を寄せ合って震えている。

「随分と面白そうな話をしているね」

「ルルーシュ!?」

新たに割り込んだ声に振り返るとそこには留学していた私の幼なじみ、ルルーシュ・レドモンドがいた。

「やぁ、セイレーン。久しぶり」

ルルーシュは私の手を持ち上げお姫様に忠誠を誓う騎士のように恭しくキスをする。

「ずっと会いたかったよ」

そう言って甘い笑みを浮かべるルルーシュの毒牙に背後に控えていた何人かの女子生徒がかかり、バタバタと倒れていく音が聞こえた。

ルルーシュはそんな光景を意にも介さない。相変わらずのマイペースさだ。
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