どうしているの?ねぇ、先輩…



鍵なんて開ける前に、すぐ振り向いた。

だって、「じゃーな」って、ついさっき聞いたばかりの瞬先輩の声が聞こえたから。

また熱が上がって、幻聴が聞こえたのかもしれない。

そんな風に思ったけど。


「ごめん、戻ってきた」


振り向いた視界の中には、ほんとに本物の先輩がいた。

なに、なんで?って、頭は軽くパニック状態。


「え、なんで……忘れ物、ですか?」


聞きながら、私も先輩のほうに戻るけど。

この状況でどこになにを忘れるのか、自分で聞いておいて謎すぎる。


「忘れものっつーか」

「………」

「言い忘れっつーか」

「……?」

「今度でいーかなぁって思ったんだけど、やっぱ早いほうがいいよなって」


自転車に乗ったまま、瞬先輩が一人でぶつぶつ言っている。


「悪い、寒いのに」

「いえ、大丈夫です……」


陽が沈んだ後の秋の風は、風邪っぴきには少し寒い。


「だよね、それも『大丈夫』って言うしかないよな」

「いえ、ほんとに、パーカーもマフラーもマスクもメガネもしてるし、だから全然、大丈夫です」


冷えピタは外でつけるのは恥ずかしくて、さすがに外したけど。


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