狂おしいほどに君を愛している

9.天使の皮を被った悪魔

シャノワール視点



信用されていないのは知っているし、信用しろと言うつもりもない。

言えるわけないだろう。

貴族であり彼女をこの檻に閉じ込めた奴ら血のつながりがある俺はまさしく彼女の敵だ。

それに今まで信用してもらうように動いたわけでもないし、数える程度しか会っていないし。

「シャノワール」

鈴を転がしたような声がした。

可愛らしい笑みを浮かべて嬉しそうにやって来るもう一人の従妹、リーズナ。

彼女がなぜ別館にいるのかは聞かなくても分かる。

別館に来る理由などスカーレットに用がある以外にない。ただ、問題なのはスカーレットに何の用があるかということだ。

「お義姉様に会いに来たの?」

「ああ。お前は何しに?」

「お義姉様の様子がおかしかったから気になって、様子を見に」

困ったように笑うその姿は噂通り、心優しい令嬢なのだろう。

彼女が本当の意味で相手のことを考えて動いているのならだが。

「様子を見てどうする?」

「えっ」

リーズナは驚いたように俺を見る。そんなことを聞かれるとは思わなかったのだろう。

冷たい異母姉を心配する優しい妹として行くつもりだったのだろうし、そんな彼女を咎める人間もいなかったのだろうから。

彼女程、偽善という言葉がよく当てはまるものはいないと思う。

「スカーレットなら俺がさっき様子を見てきたからお前が行く必要はない」

「でも」

「それともスカーレットを心配しているんじゃなくて、スカーレットの部屋を訪れることが目的だったのか?」

「どういう意味?」

困ったようにリーズナは首を傾げる。とてもあざとい姿に俺は嘲笑しか出てこない。

「放っておいてやれ」

「‥…心配をするのはいけないこと?」

口元に笑みを刻んではいるが目が笑っていない。俺の態度がお気に召さなかったようだ。

「いや。ただ心配するふりをするのは感心しないな」

リーズナの顔から完全に笑顔が消えた。

これがこいつの本性なのだろう。

つくづく思うよ。こいつほど貴族令嬢らしい奴はいないと。

美しいドレスや宝石。完璧な化粧で己の醜さを隠し、万人の目に美しく見せることに関してこいつの右に出る者はいないだろう。

それが悪いことだとは言わない。

貴族の令嬢として生きる為に必要な処世術だと思う。だからって他人の傷を抉ったり、傷つけることを容認できるわけではないけど。

「気に入らないのよ、あの子。卑しい身分の分際でオルガの心臓に選ばれて。汚らしい存在のくせに特別な力を受け継いで、まるで自分が特別だと言わんばかりの態度が」

スカーレットはただ全てを諦め、全てを憎悪しているだけだろう。自分を特別だと思ったことはないと思う。

寧ろあれだけ虐げられて自分が特別だと思えるわけがない。

そのことにリーズナが気づけないのは己が特別な存在と思っているからだろう。たかが貴族の令嬢に生まれたというだけで。

貴族の令嬢など有象無象のような存在でしかないのに。

「スカーレットが生まれなかったとしても、オルガの心臓がお前を選ぶことはないだろうな」

「何ですって」

「己を特別だと思っている傲慢な人間を神が選ぶとどうして思う?」

リーズナは反論しようと口を開いたけど背後から使用人たちの話声が聞こえ、口を閉ざした。

お淑やかで心優しいリーズナは人前で俺に怒鳴ることはできない。器用だけど面倒な生き方をしているな。

リーズナは踵を返して別館から出て行った。俺も別館を出て帰路に着いた。
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