分岐点  ~幸せになるために

あんまり 話さないまま 食事は進んで。


せっかくの 高級料理なのに。

胸がいっぱいで 味がわからないよ。


こんな時 フレンチって 便利だね。

頻繁に 給仕されるから。

手持無沙汰に ならない。


「これからも 困ったときは 遠慮なく 相談して。」

「毅彦さん…」


「こら。もう 課長って呼ばないと 駄目だよ。」

「……」


「沙耶香には 何もしてやれなくて。ごめんな。」

「そんなことないよ。無理してでも 会ってくれたじゃない。」

「それは 俺が 沙耶香に会いたかったから…」


「課長… もう 沙耶香って呼ばないで下さい。」


デザートも終わって 苦いコーヒーを 飲みながら。


私達は やっと 別れることを 実感した。


「俺 自分が こういう事するって… 意外だった。」

「こういう事…?」


「結婚してるのに。沙耶香を 好きになるなんて。」

「毅彦さん 私のことなんか 好きじゃなかったよ。」


「いや… かなり好きだった。でも どうしようもなくて。」


「私 毅彦さんの家族に ずっと 申し訳なかったから。」

「沙耶香 いつも 文句一つ 言わないで。俺に 合わせてくれて。本当に ごめんな。」


「ううん。毅彦さんこそ。ずっと 無理してたでしょう? いつか 止めないとって 思いながら 決心できなくて。私…」


「今度の彼と 上手くやれよ。沙耶香は いい子だから。大切にしてもらいな。」


毅彦と 付き合って まもなく半年。


こんな話し したことなかったよね。


最後になって そんなこと言うなんて ズルいよ。


やっと 決心したのに… 揺れてしまう。







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