また逢う日まで、さよならは言わないで。
そこへちょうど、店の奥からアイスティーとブラックコーヒーを持ったダンディーな男性がこちらへ向かってくるのがわかった。
口髭がこんなにも似合う男性を私は初めて見た。
イケメンの知り合いは、イケメンしかいないのだろうか。
「はい、お待たせしました。アイスティーとアイスコーヒーになります」
そういって、このカフェの店長はそっと私の前にアイスティーを、立花さんの前にアイスコーヒーを置いた。
「やっと来たな」
髭の生えた口角が上がった。
笑うと少し子どもっぽくなる笑い方だと思った。
「そんな待たせたっけ?」
「待たせたよ」
「悪い悪い」
ダンディーな店長は笑顔のまま私のことをじっと見てくる。
その視線ななんだか懐かしい気がした。
どこかで見覚えがある気がした。
「ふーん。初めまして。ここの店長してます。今日は遠いところからどうも」
「あ、いえ」
この人にとってはどうやら私は初めてのようだ。
単なる私の思い違いらしい。
私は気を紛らわせようと、目の前にあるアイスティーを一口飲んだ。
「……そういや、ホクトと最近会った?」
……ホクト?
店長さんの言った聞き覚えのある名前に、私は顔をあげた。
そんな私をよそに二人は話を続けた。
「いや」
「そっか……。ま、また機会見て3人で話し合うときが必要だな」
「ああ、その時はすぐ連絡する」
「頼んだよ」
真剣に話す二人の間で私は、アイスティーをゆっくりと飲んでいた。
何の話か私には全くわからない。
2人の職業柄的に経営に関する話なのだろうか。
それとも、プライべーとな話なのだろうか。
私はあまり気にしないように、アイスティーをゆっくりと飲み込んだ。
店長は、私のほうを再び見てきた。
「來花ちゃんだっけ?」
「あ、はい」
「ゆっくりしていって」
「ありがとうございます」
店長さんは軽くお辞儀をして私たちの席から離れた。
立花さんは何事もなかったかのように、アイスコーヒーを優雅に飲んでいる。
どんな姿も絵になる。
「ごめんね、プライベートな会話しちゃって」
こんな私なんかに気を使ってくれる立花さん。
「いえ……。あの、一つになることがあって」
「ん?」
立花さんはアイスコーヒーを飲むのをやめ、私のほうをみて、優しく微笑む。
「さっき会話に出てきたホクトって……。誰か聞いてもいいですか?」
立花さんは一瞬困った顔をしたように見えたが、すぐに表情は戻った。
「來花ちゃんの知らない人だと思うけど……。話す前に、なんでホクトのこと知りたいのか聞いてもいい?」
「最近、ホクトってひとから突然『talk』でメッセージが来て。全然知らない人なんですけど、たまに相談とか乗ってもらってるんです」
私の話を聞いて、明らかに立花さんの表情は動揺していた。
何かまずいことでもしたのだろうか。
「『talk』のホクトとの会話の画面、見せてもらってもいい?」
「あ、ちょっとそれは……」
ホクトとの会話の画面には、立花さんのことについての今朝のやり取りが残っている。
それを見せるのはどうしてもできない。
私が困っていると察したのか、立花さんは、口元を引き締め、少し前のめりになっていた体を後ろへ倒した。
「ごめん、それはプライバシーの侵害だね。やめておくよ」
そういって、再びアイスコーヒーを飲み始めた立花さん。
私もそれ以上、ホクトに関して探ることができず、アイスティーを口に含んだ。
アイスティーの味がさっきよりも少し、苦く感じた。