また逢う日まで、さよならは言わないで。
「ねえ、直哉」
「ん?」
直哉は、ゲームをしながら私の声に答える。
「直哉は高校卒業したらどうするの?」
「急に何?」
「……ふと思ったから聞いてみただけ」
「働くよ」
「え?」
意外な答えだった。
「何?」
直哉は相変わらず視線はスマートフォンの画面のままだ。
「大学行くと思ってた」
「大学はいかない」
「なんで?」
「学びたいことがないから」
「直哉頭いいんだから、大学行けばいいのに」
「やりたいことがあるから、大学はいかない」
「……やりたいこと?」
そんなことは初めて聞いた。
ゲーム以外にやりたいことがあるなんて、今日まで一つも聞いたことがなかったから。
「やりたいことってなんなの?」
私は知らぬ間に、前のめりになって、そう直哉に問いかけていた。
直哉の眉間に少ししわが寄ったのがわかった。
「秘密」
「なんで」
「今は教えられない」
そう頑なに、言い出さない直哉。
こうなってしまっては、直哉が頑固なのを私は知っている。
何時間問いただしたところで、直哉は口を開いてはくれない。
私は、あきらめようと、ソファーの腰掛にもたれた時だった。
「來花は?」
「何が?」
直哉は、ゲームをしたまま、そう私に尋ねてくる。
眉間のしわはもうよってはいなかった。
「高校卒業したらやりたいことないのか?」
「……やりたいたいことねー」
「……なさそうだな」
直哉はなぜかため息まじりに言う。
「なんでそんな、言い方するの」
「別に。寂しい人生だなと思って」
いつもどおりの直哉の毒舌に、むかつきはするが、何も言い返せない自分にまたイライラしてしまう。
「探せば?」
「……やりたいこと?」
「うん」
「どうやって見つけるの?」
「……さあ」
大事なことを教えてくれない直哉。
いつもそうだ。何かをにおわせては来るが、いつも肝心なことは教えてくれはしない。
この勿体ぶりようがまたまた私をイラつかせる。
そこで、丁度1階からお母さんが私たちを呼ぶ声が聞こえる。
夕飯ができたようだ。
私たちはほぼ同時に立ち上がり、にらみ合いながら部屋を出ようとした。
再び、お母さんが1階から、エアコンは切ってきなさいよ、という声が聞こえる。
直哉はお先にとでもいうように、口角をあげ、私を見てきた。
私は、渋々デスクへ引き返し、デスクの引き出しを開け、エアコンを切った。
もう直哉はすでにもう食卓に着いているのだろう。
何もかも、直哉に負けている気がして、自分にむかつくが、あまり深く考えては、また沼にはまると思い、私は、素早く一階へ降りる。
いろいろ考えるのは、ひとまずご飯を食べてからにしよう。お母さんが私を待っているだろうから――――。