弔いの鐘をきけ
ニコール・タチアナ・バーソロミューの葬儀は雲ひとつない晴天の日に行われた。まるで戦後の識字率上昇に一役買ったであろう彼女の偉業を神が評価してくれたかのような、真っ青な空の下で、彼女の棺は埋められた。
天使の喇叭に祝福されながら、彼女の魂は天国で待つ愛する夫や家族、友人たちと再会できたのだろうか。そうだったらいい。けれど。
「あたしは、悔しい……」
真っ黒な喪服のまま教会から逃げ出すように街へ飛び出したジェシカは、タチアナ書房の若き編集者、ミトにあっさり捕獲された。このまま墓地に連れ戻されるのかと思えば、彼は無言のままジェシカを教会近くのシティホテルへ連れて行く。
リーン、ゴーン、と弔いの鐘の音は未だ響いているのに。
ミトは放心状態のジェシカを客室へ押し込み、涙を堪えていた彼女の身体をきつく抱きしめる。
「泣いてもいいんだぞ?」
ニコールの葬儀で一度も涙を見せなかった彼女を危惧していたミトは、彼女が棺を墓地へ移動させる際に教会から逃げ出したのを見て、思わず追いかけていた。