弔いの鐘をきけ
幼いころの自分は叫ぶことしかできなかった。父親を止めることも叶わず、ともに外の世界へ逝くことも叶わず。
父親が何をしていたのか、戦争が終わったいまなら理解できる。
彼は職業軍人だった。しかも、国の重要機密を管理する主要ポストにいた……
だから彼はニコールや母に書斎に入るな、活字を読むなと口を酸っぱくして訴えつづけたのだ、死の寸前まで。
けれど時代は変わった。戦争は終わったのだ。留守を任され家のなかに抑圧されていた女たちも動き出す。
活字を嗜むのは男だけではなくなった。社会進出や教育水準の向上により女たちも新たな世界へ羽ばたきだしている。
ジェシカに車椅子を押されながら街並みを見る。看板には何が売っているかが書かれており、商品の値段であろう数字やSALEの文字が窓いっぱいに掲げられている。かつて青空市場のように雑多な品物が並べられているだけだったその場所は、当り前のように文字や記号で溢れている。それだけ、この国の識字率が向上したのだろう。