弔いの鐘をきけ
ジェシカは感慨深そうに街並みを眺めるニコールを不思議そうに見つめている。今年十八歳になる彼女は知らないのだ、かつてこの国が大陸を二分する戦争で、多くの生命を失った現実を。
けれどそれと引き換えに、彼らは先進国の文化と技術を手に入れられたともいえる。現にニコールもそのおかげで戦後、高等教育を受けることが叶ったのだから。
政府関係者の一部の人間しか知らなかった情報も、いまでは複数の新聞社が毎日のようにこぞってニュースを報じている。何も知らされず貧困のなか細々と暮らしお呼びがかかれば軍隊に入れられ殺し合いに興じていた時代は終わったのだ。
軍部の要人であったニコールの父は敗戦の色が濃くなると同時に酒に溺れるようになり、最後は呆気なく死を選んだ。書斎に火を放ち、館ごと焼き尽くしたのだ。新緑の蔦が絡まる鳥籠のなかでおとなしく主人の言うことをきいていた母と弟を道連れにして。
「……ニコ?」
「ううん、なんでもないわ」
ひとり置いていかれてしまったと、あのとき生き残ってしまった自分を不甲斐ないと感じたのは事実。けれど、生き延びたから自分はジェシカに出逢えたのだ。