弔いの鐘をきけ

 だからニコールは首を振る。過去を知らない彼女にみっともない姿は見せたくない。
 たとえ生命の灯が間もなく燃え尽きようとしていても。


   * * *


「――ニコール! 来てくれたのか!」
「ミト、堅苦しい挨拶は抜きよ、ジェシカが驚いているじゃない」

 車椅子ごと抱擁しようとするミトを前に、ニコールはくすくす笑う。黒髪碧眼の青年はニコールが本棚に目を向けているのに気づき慌てて数冊の本を机上へ並べていく。

「今月の新刊は三冊、ニコールが入院前にマダム・アリーシアから受け取った原稿の上下巻と、クリフト警部の事件簿最新刊」
「あら、ルート先生間に合ったの!」
「入院したって聞いて頑張ったらしいぜ。これ読んで元気になれだと」
「まったく、お上手なんだから」

 ニコールは手渡された三冊の重みを両腕に感じて満足そうに笑みを浮かべる。子どもの頃はけして触れることのできなかった物語たち。戦争が終わって大人になって、自分のすきなことを突き進めた結果が、この手のなかにある。それだけで幸せを感じられる一方、命を散らした家族に申し訳なく感じてしまう。
 そんなニコールの葛藤を知っているからか、ミトは彼女の銀髪を優しく撫でながら、うたうように言葉を紡ぐ。

「ゆっくり読めよ」
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